映画「ウインド・リバー」 感想(ネタバレあり)




ウインド・リバー
Wind River

2017年/アメリカ
[監督] テイラー・シェリダン
[出演] ジェレミー・レナー
    エリザベス・オルセン
    グレアム・グリーン
    ジョン・バーンサル

あらすじ
ネイティブアメリカンの保留地ウインド・リバーで女性の遺体が見つかります。

ジェレミー・レナー祭り
90点

 

 

公開前から観たいと思っていた本作。
けど薄々感づいてはいたけど、案の定私の住むド田舎では劇場上映されなかった・・。
が、公開からしばらくしてミニシアターで上映されてることを知りまして。
いそいそと行こうとしたものの、平日の18時1回のみの上映だってよ。
10歳と4歳の子供を抱えてる主婦には間違いなく行けねえ時間だよ( ゚д゚)、ペッ

結局私の命綱のdTV様にてようやく鑑賞。
やっぱり映画館で観たかったなぁと思った秀作でありました。

少女を狙うシリアルキラーとか土地にまつわる暗い歴史・・とかの話かなぁなんて思ってたんですが、実際観てみたら全然違ってて。
散々観たいと言ってたくせに何も知らないという(;^ω^)
だってさ、ポスターに「なぜこの土地では少女ばかりが殺されるのか」って書かれてるんだもん。
予告編も殺人鬼を追い詰めるミステリーっぽく作られてるような。

けど実際は迫害されたネイティブアメリカンの哀しみや絶望、生きるのに厳しすぎる保留地の自然環境、そしてアメリカの闇を描いていて。
恥ずかしながら、私はネイティブアメリカンの受けた迫害や保留地のことはほとんど知らなくてですね。
本作を観て初めて知ることが多く、また雪深い極限的な環境を目の当たりにして衝撃を受けました。

 

夜の闇の中雪原を裸足で走る少女のシーンから映画は始まり、地元のベテランハンターのコリー(ジェレミー・レナー)がその少女の遺体を見つけ、FBIから新米捜査官のジェーン(エリザベス・オルセン)が派遣されてくる。

ジェーンのこと初見では「生意気なだけの無能なチャンネーなんじゃねえの?」なんて思ったんですが。
捜査を真摯に行い、最後まで闘いぬいて人としても捜査官としても熱くて素晴らしい女性でございました・・ごめんよ。


ハートの熱い、いい娘さんでした(年寄りっぽい文章)。

右も左もわからないジェーンはコリーに協力を請うのですが、このコリーがなんというか深かったわ。
淡々としているんだけど、数年前に娘を亡くしたという癒えることのない悲しみや静かな怒り、そして傷を持つからこその優しさがひしひしと伝わってきて。
もうジェレミー・レナーの抑えた演技が最高。

そしてアクションも最高だった・・!!
クライマックスの至近距離での銃撃戦。
緊迫感がすさまじくておもしろかったなぁ。
で、そこからのコリーの狙撃による容赦ない皆殺し(主犯格に逃げられたけど)がもう本当すっきり&かっこよくて。
このシーンは一見の価値あり。
ライフルってあんなに人が吹っ飛ぶものなのね。


しぶい・・!!

そして逃げた事件の主犯格もちゃんと追い詰めて私刑を下すもんだからこれまたすっきり。
この私刑が映画冒頭の零下30度の極寒の雪の中を裸足で走り、冷気を吸い込み肺が凍って破裂して死んだ少女と同じ死に方をさせるという大満足のやり方でした。

 

結局事件の顛末は、掘削所の警備員たちが少女をレイプ&少女の恋人を集団リンチで殺害という非常に胸糞悪いものでした。
何回も言うけど本当胸糞悪い。

少女の恋人(ジョン・バーンサルだった。びっくり!)は警備員たちの同僚なのにさ、自分たちの欲望のために殺しちゃうのには驚いたし呆れたわね。

恋人が命をかけて少女を逃がしてくれて、そして映画冒頭の少女が雪原を走って逃げるシーンにつながるんだよね。
ジョン・バーンサル、漢(おとこ)だったわ!!

まあ正直この事件が保留地だから起きた・・という感じがあまりしなかったのはあれ?って感じだったんだけど。
主犯格が「雪と静けさしかないこの地でやることは酒とドラッグと女くらいだろー!!」みたいなこと言ってたんだけど(うろ覚え)、何もない保留地にいるがゆえにうっぷんがたまって爆発しちゃったってことなのかな。
別に保留地じゃなくても起きうる事件だよなあ。

ただ保留地ならではの怖ろしさは、最後にテロップで出てたけど「数ある失踪者の統計にネイティブアメリカンの女性のデータは存在しない。実際の失踪者の人数は不明である」ということ。
あんな広大な土地に警察官が6人だけって言ってたもんな。
まともに捜査をしたくてもできないでしょ・・。

もし私が今住んでる地を取り上げられ、娘のバンビ(仮名・10歳)とたぬ子(仮名・4歳)と共にウインドリバーに追いやられたら?
・・もう本当に地獄だよね。

コリーが「運などない、生き延びれないのは弱いから」と言ってたように完全な弱肉強食の世界。
生きていくことさえ容易じゃない。

娘を亡くしたコリーは「社会ではなく自分の感情と戦う」ことを選んだって言ってたけど。
私は娘たちに何かあったらコリーのようには生きていけないよ、きっと。

コリーがジェーンに涙ながらに「娘の将来を考えて大切に育ててきた。けど1回の油断で娘を失った。君に子供ができたら絶対に目を離すな。」と話すシーン。
もうあまりにもわかりすぎて胸が締めつけられたわ。 
本当に大切な我が子を失うことほど怖くてつらいことはない。

 

コリーの娘の身に何があって亡くなったのか、コリーも知ることなく真相は最後まで不明のまま。
現実的な描き方だと思いました。。
シェリダン監督が脚本を書いた「ボーダーライン」もそうだったけど映画らしい都合のよさや甘いところがなく、リアルに描かれてるところが好きです。
作品の静かながら熱量のある雰囲気と完成度の高さ、ジェレミー・レナーの演技で大満足な作品でした。